コラットの旅
二十余年の時を越えて
静かな空港と、光あふれる夜市を歩いた2002年の記憶
古い写真のフォルダーを開くと、そこには今から二十年以上も前のコラットが残っていました。コラットは、タイ東北部の玄関口として知られるナコーンラーチャシーマーの愛称です。写真に写っているのは、大きな観光名所ではありません。小さな空港の待合室、雨上がりの滑走路、夜市を行き交う人々、屋台に並ぶ食べ物。けれども、旅の記憶はこうした何気ない風景の中にこそ、鮮やかに息づいていました。
静かな空港から始まった旅
コラットで最初に目にした空港は、驚くほど静かでした。磨かれた床に白い椅子が整然と並び、広いロビーには人影もまばらです。都会の空港のような慌ただしさはなく、時間そのものがゆっくり流れているようでした。
建物の外へ目を向けると、雨に濡れた道路の向こうに濃い緑が広がっていました。玄関脇では、土地を守るような石像が遠くを見つめています。湿った空気、雲間から差す夕方の光、車を待つ人の姿。そのすべてが、タイ東北部へ来たことを実感させてくれました。
夜の街へ――ナイトバザール・コラット
日が暮れて向かったのは、「NIGHT BAZAAR KORAT」の看板が掲げられた夜市でした。入口をくぐった瞬間、静かな空港とはまるで別の世界が広がります。裸電球と蛍光灯が通りを照らし、青や赤のテントが連なり、人の波が絶え間なく行き交っていました。
通りの両側には、衣類、かばん、アクセサリー、日用品、食べ物の店がびっしりと並んでいます。店先をのぞき込みながら歩く人、友人同士で品物を選ぶ若者、買い物袋を手に帰りを急ぐ人。観光客向けの華やかな演出ではなく、そこに暮らす人たちの日常が、そのまま夜の通りにあふれていました。
小さな品物に宿る、当時の暮らし
市場には、色とりどりの髪飾りや小物が山のように並んでいました。手書きの値札には「5」「10」「15」と数字が並びます。籠ごとに分けられた細かな商品を眺めているだけで、当時の物価や若者たちの好みまで伝わってくるようです。
写真には、店の商品だけでなく、働く人、買い物を楽しむ人、通りを行き交う人の表情がたくさん残っています。二十年以上を経た今、その一枚一枚は、旅先の記録であると同時に、2002年のコラットの暮らしを写した貴重な時間の断片になりました。
屋台の灯りと、食べ物の記憶
夜市を歩いていると、食べ物の店の前では自然と足が止まります。袋詰めされた菓子、葉に包まれた軽食、鉄板に並ぶ白い餅のような料理。写真だけでは名前を思い出せないものもありますが、照明に照らされたつや、店先の湯気、甘さや香ばしさが混じる夜の匂いは、今も記憶の奥に残っています。
夜市の魅力は、何を買ったか、何を食べたかだけではありません。光の中を歩き、知らない言葉を聞き、地元の人々の暮らしにほんの少し触れたこと。その感覚こそが、旅のいちばん大切な土産だったように思います。
雨上がりの滑走路から、次の町へ
旅の終わり、再び空港へ戻りました。窓の向こうには小さなプロペラ機が待っています。濡れた駐機場を歩き、乗客たちは一人ずつ機体へ向かっていました。搭乗橋もなく、飛行機まで自分の足で歩いていく。その短い距離さえ、旅の終幕を惜しむ時間だったのかもしれません。
空港の静けさから始まり、夜市の熱気に包まれ、再び静かな滑走路へ。わずかな写真をたどるだけでも、あの日の光と空気がよみがえります。街はこの二十余年で大きく変わったことでしょう。それでも、写真の中のコラットは、夕立の後の湿った風と人々の笑顔をたたえたまま、いつでも私を2002年の旅へ連れ戻してくれます。
※本稿は、2002年9月に撮影した写真をもとに、二十余年前の旅を振り返って記したものです。記憶が曖昧な料理名や場所については断定を避け、写真から読み取れる当時の情景を中心に構成しています。

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